「あなた、あの農地の方?」と
見知らぬ女性が声を掛けてきた。
「私、40年前にあの農地を売ったのよ」
帽子を深くかぶって分からなかったが
よく見るとご高齢だった。
姿勢の良さがその方を若く見せた。
農地の売買の話だと面倒だなと思い
私は苺の品出しに集中するフリをした。
「あの土地は霜が下りるでしょう?」
「日当たりも悪いし」
「それにイノシシもでるし」
「あそこは何も作れないわ」
つい最近のことのように話が続いたけれど
彼女が回顧していたのは
40年も前のこの農地のことだった。
それからその大規模な果樹園は
農地を区分けして競売に出された。
オーナーが数人入れ替わり
植えてあったミカンの木が枯れ出して
一帯が耕作放棄地となった。
農地のすみに残る柑橘の名残も
ここ数年で枯れていて
40年以上前に植えたのならもう寿命かなと
話を聞きながら納得していた。
話し終えたご婦人は
「あなたも大変ね」と去っていった。
あの農地は最高ですよと
思っていたけれど言う必要がなかった。
耕作放棄になっていたこの農地を整地した時
驚く程の埋められていた産業廃棄物が見つかっていた。
業務用のエアコン、
タイヤが6個付いた大型車、
錆びて潰れたトラクター。
ビニールやマルチが落ち葉の下に埋めてあった。
愛犬の散歩中に古いビールの缶を見つけることが未だにある。
農地は使う人選べないから
大変だったね。
この圃場に移動して2年目の
朝の農産物直売所でそんな話

